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「ラーメンの作り方は特許になるのか?」 実はよく知らない“特許”とは何か!

ラーメン

実はよく知らない“特許”の基本的な考え方について、ラーメンの作り方などの食品加工を例として、卯月国際特許法務事務所の小森栄斉弁理士に解説して頂きました。

 

(1)はじめに

 多くの方は、「特許」を取得しようと考えたことは無いのではないでしょうか? もしかすると、ものすごく斬新なアイデアのみが特許になると思われているかもしれません。

ところで、「ものすごく斬新」というのは、どの程度の斬新さなのでしょうか。統計から、一つの解釈を示すことができます。特許庁の統計によると、2016年の日本での特許登録件数は、203,087件です。すなわち、年間20万件も斬新だと判断されることになります。

このように考えると、皆さんが日常生活や業務の中で思い付いたアイデアも、特許になるのでは!と思えるのではないでしょうか。特許は多くの人や会社が取得できる可能性があります。それにもかかわらず、「特許」とは実は何なのかあまり知られていないように思います。

そこで、本記事では、特許とは何なのかを理解し少しでも役立ててもらえるよう、食品分野でのケースを想定して、特許について考えてみたいと思います。

 

(2)ケース:ラーメンの作り方

甲さんは、斬新な「ラーメンの作り方」を考えたので、その方法で作られたラーメンを提供するラーメン店を開きたいと考えています。甲さんは、特許によってその作り方をライバル店の店主である乙さんに真似されないようにしたいとも考えています。

 

1.特許の保護対象 

そもそも、新しい「ラーメンの作り方」というアイデアは、特許で保護できる対象なのでしょうか? 大学の研究室や企業の研究所で研究されているような技術、例えば遺伝子の検査方法やPCR法に用いられるプライマーなどのみが特許の保護対象になり、ラーメンの作り方は特許で保護できないと思われている方もいるかもしれません。

しかし、ラーメンの作り方は特許の保護対象になります。特許庁のデータベースで調べてみると、ラーメンの作り方の特許というのは残念ながら見当たりませんでした。しかし、料理の作り方に属する発明は発見することができました。例えば、「焼き栗の作り方」(特許5842234号)が特許となっています。具体的な内容は、以下のようになっています。

 

『ニホングリとなる栗の実の鬼皮および渋皮に切れ目を入れる切れ目入れ工程と、前記切れ目入れ工程後の前記栗の実を蒸すことで、前記渋皮と前記実の間に隙間を生じさせる工程と、前記蒸し工程後の前記栗の実をオーブンで焼く焼き工程と、を備えることを特徴とする、焼き栗の作り方。』

 

また、「カルボナーラの作り方」(特開2007-89403)というアイデアも出願されていました。残念ながらこのアイデアは特許にはなりませんでしたが、カルボナーラの作り方が特許の保護対象ではないからという理由で特許にならなかった訳ではありません。これらの例からも分かるように、ラーメンの作り方は特許の保護対象になります。このように、大学の研究室や企業の研究所で研究されているような技術だけが特許で保護される訳ではありません。

  

2.特許の保護範囲

特許は、特許で保護されているアイデアが無断で真似されたら、その行為をやめさせることができる権利と言うことができます。

特許による保護を受けるためには、特許を取得しなければなりません。特許を取得するには、アイデアを記載した書面を特許庁に提出する必要があります。この提出のことを「出願」と言います。

「ラーメンの作り方」について特許を受けたければ、その作り方を記載した書面を特許庁に出願することになります。この書面には、当業者、例えばライバル店の店主乙さんが試行錯誤をしなくてもその「ラーメンの作り方」が実施できる程度に説明が記載されていなければなりません。この書面は、出願から1年6月経過すると特許になるかどうかに関わらず必ず公開されます。公開された書面は「公開公報」と呼ばれています。つまり、公開公報から、乙さんは甲さんが考えた「ラーメンの作り方」を知ることができます。知られると、真似されるリスクがあります。

ここで、特許が取得できれば、乙さんは真似することができないと思われるかもしれません。確かにそうなのですが、特許を持っている人(特許権者と言います。)が真似だと考える全ての行為をやめさせられる訳ではありません。そこで、ここでは特許で保護するとはどういうことなのかを理解するために、どんな行為が特許で保護されないのか考えてみたいと思います。

 

① 特許は文章でアイデアが特定されたものです。この文章で特定されたアイデアが特許によって保護を受けることができ、そこで特定されていないものは原則保護を受けることができません。具体的に考えてみます。ラーメンの作り方のアイデアも文章によって特定されます。

例えば、ラーメンの作り方の一工程として、「水1リットルに豚骨1個と長ネギ1本とジャガイモ3個を入れて煮込む」ということが特定がされているとします。この作り方では、「イモ」を入れて煮込むことで良い味が出せるもので、甲さん自身は「ジャガイモ」以外は試していないとします。

このような場合、甲さんの公開公報を読んだ乙さんが、「ジャガイモ」ではなく「サツマイモ」でも良いのではと考え、サツマイモを入れて煮込むかもしれません。サツマイモでも「イモ」ですので、甲さんが考えたラーメンの作り方では良い味が出るものと考えられます。このように「ジャガイモ」の代わりに「サツマイモ」が用いられる場合、甲さんの特許によって乙さんの行為をやめさせることはできるでしょうか? 残念ながら、特許には「ジャガイモ」としか記載されていないので、「ジャガイモ」ではない「サツマイモ」まで特許で原則としては保護されず、やめさせることはできません。

この例では、完全に真似されたとは言えないまでも、甲さんのアイデアが開示されたことをきっかけに、核となるアイデアを真似されたと言えます。

 

② 次に、甲さんが特許を取得しているにも関わらず、乙さんがその「ラーメンの作り方」をそっくりそのまま真似している場合を考えてみましょう。

特許に基づいてその行為をやめさせるには、甲さんが乙さんの真似を証明しないといけません。ここで、乙さんが真似していることをどのように証明するのかという問題があります。

ラーメンは、店の中の厨房で作られるのが一般的だと思います。先ほど、ラーメンの作り方として、「水1リットルに豚骨1個と長ネギ1本とジャガイモ3個を入れて煮込む」という特定がされている例を挙げました。この例では、「水1リットルに豚骨1個と長ネギ1本とジャガイモ3個を入れて煮込む」行為をしているかどうかを知るには、乙さんのお店の厨房に入って確認するしかありません。しかし、甲さんのライバル店の店主であり、しかも甲さんの作り方をそっくりそのまま真似している乙さんが、甲さんを簡単に厨房に入れてくれるとは考えられません。そうすると、乙さんが真似をしていても、甲さんはそれを証明することができず、やめさせることができません。

 

③ 近年は、ラーメンは海外でも人気があり、ロンドンなどでもラーメンを食べることができます。そこで、今度は、乙さんがロンドンで甲さんのラーメンの作り方をそっくりそのまま真似した場合を考えてみましょう。乙さんの真似をやめさせることができるでしょうか? 残念ながら、特許は、その取得をした国にしか効力が及びません。

すなわち、甲さんが日本国特許庁に出願して特許を得ていても、英国にはその効力は及びません。したがって、甲さんが英国において特許を持っていない限り、乙さんは甲さんの「ラーメンの作り方」を英国で自由に行うことができます。そのため、甲さんは当然、乙さんの行為をやめさせることはできません。

 

(3)おわりに 

本記事では、ラーメンの作り方というケースを通して、特許で保護できるものや、特許で保護するとはどういうことなのかを考えてみました。分かりやすさを重視して、本記事では不正確な表現や極端な例を用いていますが、「特許」とは何なのか少しでも深く理解し、より特許を有効に活用して頂けたら幸いです。

 

<執筆者>
卯月国際特許法務事務所 パートナー  弁理士
小森栄斉

幅広い知識と豊富な経験による、実務の視点に立った分かりやすく・丁寧な対応に定評がある。
国内外の特許案件の対応経験も多い。

[略歴]
2001年 中央大学大学院理工学研究科修了(工学修士)
2009年 弁理士登録
2011年 英国ブルネル大学ロースクール修了(英国法学修士)
2012年 卯月国際特許法務事務所開設

(卯月国際特許法務事務所のホームページはこちら



2018.09.11 更新