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「中国での食品安全への取り組みについて」 講座②『食品安全の動向』

佐藤顧問 写真3 ハルピン市

アジア食品安全研究センター 佐藤元昭顧問に「中国での食品安全への取り組み」についてご寄稿いただきました。3回に分けてご説明いただきます。

講座①は「輸入食品の安全性」

講座②は「食品安全に対する動向」

講座③は「法規制や残留農薬検査体制」

今回は 第2回目で「食品安全の動向」の内容になりますので、ご期待ください。

 

講座②「食品安全に対する動向」

 

中国の食品安全への動き

 中国では1949年に毛沢東により中華人民共和国が樹立されて以来、人民公社・国営企業による「社会主義的計画経済体制」がとられた。農業も作物ごとに生産量が割り当てられ、個人の収入は制限されたため、「ノルマを果たすためにのみ働く」意識が定着してしまい、生産量を増やしたり、品質を向上させる意欲が高まらなかった。

 1978年に主席に就いた鄧小平によって、経済政策が「社会主義的計画経済体制」から「資本主義的市場経済体制」に転換された。そして、農業生産にも、割当て生産量よりも余剰に生産された農作物は生産者の「所得」として認められるようになると、農民に生産意欲が芽生え、農業に活気が生まれ、経済活動が大きく発展することとなった。これに伴い、飢えをしのぎ「空腹を抑えるための食事」から、美味しく衛生的で安全な「食生活を楽しむ食事」へと変わっていった。また、農産物の市場価値を高める意欲が農民に芽生え、農作物の品質も向上した。中国政府はこれを外貨獲得のための輸出に振り向けるよう、積極的に動き出した。

 このころ日本では、葱、椎茸等の安価な農作物が中国から急激に大量輸入されるようになり、一部の農家に経済的な打撃が加わるようになったため、日本政府によって「セーフガード」による中国産の一部の農作物の輸入に制限をかけられる事態になった。

 このような状況の中で、中国では一部の農業生産者によって、増産と利益追求のために、安全性に配慮を欠いた高毒性有機リン系農薬等の過剰投与によるとみられる農作物が流通し、これによる食中毒事件が香港や上海などの都市部で発生してしまった。また、日本や欧米諸外国から自国の食品安全基準を逸脱しているとした「輸入差止め事件」が相次いだため、中国政府は1995年に『中国食品衛生法』を施行し、これを抑えようとした。

 この時期は、経済発展を目指して中国政府がWTO 加盟準備を押し進めていた時期でもあり、危機感を抱いた共産党の機関紙により農薬汚染農作物『毒采』の存在が暴露された。『毒菜』事件の報道が党の機関紙でなされたため、都市部の住民の間に農作物の安全性への不信感が一挙に高まってしまった。巷の噂では、市販の野菜は「細かく刻んだ後に水道水を流しながら1時間以上さらしてからでないと安心して食べられない」人まで現れたとの事である。

 200112月に中国はWTO加盟国となったが、これに伴い食品の品質や安全性等の規格の国際化が求められる事になり、輸出入食品等の安全検査を行う部署として「国家質量監督検験検疫総局(AQSIQ)」を設立、「無公害食品行動計画」を策定し、これに備える体制を整えた。

 2002年には、中国からの農産物が急激に増加していることへの危機感を抱いた一部の農業団体によって、中国産冷凍ホウレンソウから日本の残留基準(0.01ppm )を大幅に超えたクロルピリホスが検出されることがマスコミに伝えられ、大々的に報道された。これにより、日本国内の消費者の間に「中国農産物忌避意識」が急激に高まってしまった。

 これは、中国の国内では農薬使用基準が作物ごとに細分化されておらず、ホウレン草は「葉菜類」の一員であるため、チンゲンサイなどと同様にこの農薬が使用されていたことによる。ところが、日本では作物ごとの分類であり、この農薬は「小松菜」や「キャベツ」には使用してもよいが、「ホウレン草」には農薬メーカーによって農薬登録が取られていなかった。そのため、この農薬が、法律上ではホウレン草には使用できない「無登録農薬」になっていたのである。このため、日本の残留基準値が、ホウレン草では小松菜やキャベツの百分の一以下の0.01ppm(分析可能下限値)に設定されており、小松菜では基準値の1/3以下の0.3ppmと基準値を大幅に下回っていて安全上は問題が無いにもかかわらず、ホウレン草では基準値の30倍の濃度となり、食品衛生法『違反』になってしまったというわけである。

 マスコミではこれを単に、中国産の冷凍ホウレンソウから基準値の『30倍検出』されたと報道した。そのため、あたかもこれが「猛毒」であるかのような印象を消費者に与えてしまい、消費者に中国食品忌避の意識が急激に高まってしまった。しかし、毒性に全く問題が無いとはいえ、食品衛生法上は明らかに『違反』しているので、「送り戻し」や「廃棄処分」の対象になってしまった。消費者の輸入食品に対する「残留農薬恐怖意識」の高まりを受けて、2003年に議員立法によって、すべての食品に残留基準値を設定しこれに合致する食品の輸入を認める「ポジティブリスト制度」の導入が議決され、2006年より施行することになった。

 日本での「冷凍ホウレン草クロルピリホス残留事件」は、WTO加盟後、外貨獲得のため、輸出に力を入れていた中国にとって、輸出相手国の基準値に対する配慮が不足していたために発生した、「不幸な事件」であった。

 

 2002に中国では『輸出入野菜栽培基地管理細則』が施行され、輸出用農作物栽培団体に対し、①農薬の購入・使用・管理状況の記録保持 ②分析検査機器の装備と分析結果の保管 ③20㌶以上の圃場の確保 ④専属農業技術者の配置等の条件が課せられた。

 2003には「国家食品薬品監督管理局」が設立され、食品安全に一段と踏み込んだ対応がなされた。その後も中国国内では2004に、澱粉などの増量剤を加えた偽装粉ミルクで育てられた乳幼児の栄養失調による死亡事件や、2005には、中国産ウナギから禁止薬物である「マラカイトグリーン」が検出される事件などが発生している。

 2006には、日本で残留農薬に対し「世界一厳しい」とされる「ポジティブリスト制度」が実施された。これにより全ての食品と農薬等の組み合わせに残留基準値が設定され、基準値設定の無い食品については0.01ppmの「一律基準値」が設定されることとなった。中国の役人の一部からは『緑色関税障壁(「安全」に名を借りた中国食品の締め出し)』として反発の声が上がったが、EUでもポジティブリスト制度が実施されたため、中国食品の輸出には「相手国の基準値」に従わざるを得なくなった。

 日本向け食品取扱量が最も多い山東省の「出入境検験検疫局(CIQ)」では、20061月に「特急通達」を出し、①日本およびEUのポジティブリスト制度に積極的に対応すること ②相手国の要求事項や中国食品の原料や材料の検査状況、農薬、動物薬、添加物の使用や残留状況を調査報告すること ③中国企業やCIQの管理体制を向上させ、計測技術水準を相手国の水準に合わせること等を通達した。この年11月には、「人の健康と安全を保証するために」『農産品質量(品質)安全法』を施行した。ここでは①化学物質・毒物・微生物等に汚染された農産物の販売禁止 ②大気・水・土壌等が汚染された地域での農作物の栽培禁止等を定め、罰則も強化した。

 20071月にはメタミドホス等毒性の強い農薬5種類の使用を全面禁止とし、12月には農薬登録管理制度を大幅に強化した。しかし、この農薬の強制回収や廃棄処置が不徹底であったため、農家には在庫が残り、これを使い続けた農家もあったようである。この年には米国に輸出されたペットフードによるペットの死亡事件が発生した。

 2008には中国の国威をかけた北京オリンピックが開催されたが、中国国内では、メラミンを加えて乳蛋白の量を偽装した粉ミルクにより乳幼児が死亡する事件が発生した。厳密な「一人っ子政策」を実施している中での大切な乳幼児の腎臓障害やこれによる死亡事故は中国国民の国産食品への「不信」に火をつけ、その怒りが中国政府にも向けらかねない事態になった。

 中国では、優良企業に対しては製品検査を免除する『免検制度』があったが、乳製品の大手企業の製品からメラミンが検出されたため、この制度が廃止され、「重大な食中毒事件を起こした」として関係者が処刑された。一方、日本では中国製冷凍餃子のメタミドホス汚染により、2007年暮れから2008年正月にかけて千葉と神戸で重篤な食中毒事件が発生した。しかし、中国側は『日本での汚染』を強く主張し、日・中の警察間で意見の対立が起こった。日本への出荷が出来なくなっていた中国製冷凍餃子のメタミドホス汚染を中国政府が否定してしまったため、『安全な餃子』であるのなら、と中国国内の企業がこれを買い取り、福利厚生の一環として従業員に配布してしまった。しかし、これを食べた従業員の家族が重篤な食中毒になってしまった。この事件によって初めて中国公安当局が捜査を行った結果、この餃子の製造企業の従業員が待遇に不満を持ち、袋詰めの工程でメタミドホスを注入したことが分かった。犯人は逮捕され、時を置いてこの事が日本側にも通知されたが、非常に後味の悪い事件で有った。

 2009には、度重なる違反や事件の発生等で、時勢に会わなくなった「食品衛生法」を大幅に改訂した『食品安全法』を制定し、輸出食品に偏りがちであった食品安全対策を国内に流通する食品の安全性強化にも乗り出した。

 2010には国務院(日本の内閣府相当)に「食品安全員会」を発足させ、食品安全体制を強化させるとともに同年開催される上海万博で中国を訪れる外国人が中国国内で摂る食品の安全にも気を配る事とした。  

 2013には『国家食品薬品監督管理総局』を新設し食品安全対策をさらに強化した。

 2014には上海福喜食品による「チキンナゲット事件(期限切れ鶏肉使用)」が発覚し、中国からこれを輸入していた日本を含む諸外国のファーストフード店に大打撃を与えてしまった。またこの年に、不備が目立ってきた食品安全法の見直しに着手し、数回のパブリックコメント等の手続きを経て201510月に同法が改訂施行された。

 

講座①は「輸入食品の安全性」こちら

講座③は「法規制や残留農薬検査体制」はこちら

(執筆:アジア食品安全研究センター 顧問 佐藤元昭)

 

 

2017.10.30 更新