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「中国での食品安全への取り組みについて」 講座③『法規制や残留農薬検査体制』

佐藤顧問 写真4 ハルピン市

アジア食品安全研究センター 佐藤元昭顧問に「中国での食品安全への取り組み」についてご寄稿いただきました。3回に分けてご説明いただきます。

講座①は「輸入食品の安全性」

講座②「食品安全に対する動向」

講座③「法規制や残留農薬検査体制」

の内容で、今回が最終回となります。

 

講座③「法規制や残留農薬検査体制」

 

中華人民共和国食品安全法について

この法律は1995年に制定された「食品衛生法」を改訂し、2009年に「食品安全法」(全10章・104条)を制定したものである。しかし、その後も多くの違反や事件が相次いだ。その原因として、①法律違反に対する罰則が軽い ②監督官庁が多岐にわたり、責任の所在が不明確 ③外食産業や関連サービス業の発達に対処できていない点が多い ④各種不安全食品事件の多発に適合できていない ⑤消費者救済処置が不十分である等があげられる。このため、危機感を抱いた中国政府が、数回に渡りパブリックコメントを求め、その都度検討を重ね、食品添加物や特殊食品に関する規制、企業の安全管理体制、法的責任の強化などを行って、2015年10月に『改訂食品安全法』を施行した。主な改正点は以下の通りである。

  1. 食品の生産・販売・流通・サービスに係る許認可を「国務院食品薬品監督管理部門に一本化
  2. 食品生産、取扱い管理制度、従業員の健康管理、トレーサビリティーシステム、自主検査制度などの確立の義務化
  3. 食品生産者の「原材料」「生産段階」「製品等の検査」「出荷」等に係る管理要求事項の制定・管理と実施の徹底
  4. 飲食業者の食品安全基準未達材料の購入禁止、腐敗変質材料の使用禁止、加工・貯蔵・陳列・保存に関わる施設設備の定期的保守管理の実施
  5. インターネットによる販売業者の食品安全責任の明確化
  6. 説明書等の文書不備でリコールした食品は、講じた処置を明示して再販売可能であり、廃棄や・無害化する場合は届け出なければならない
  7. 遺伝子組換食品の生産・取扱はその旨を明示しなければならない
  8. 保険食品・医療用食品・乳幼児食品等の「特殊食品」の管理を厳格化
  9. 輸入食品は中国の基準に合致しなければならず、中国の検疫部門で登録を受けなければならない
  10. 国外に輸出する場合は相手国の基準・要求事項に合致しなければならない
  11. 各種法的責任を強化する。例えば、非犯罪でも結果が重大で有れば、責任者を5日以上15日以内で拘留することができる、重大違法行為で処罰された者は、5年間食品生産・取り扱いに従事できず、有期刑以上の刑を受けたものは一生涯、食品の生産・取り扱いの管理業務に就くことが出来ない。しかし、不意図的であることを明確に証明できれば刑を免れることができる
  12. 消費者が損害を被った場合、生産者・取扱者を問わず、先に請求を受けた者が損害賠償金を支払わねばならず、支払った者は責任がある側に請求できる

 

中国の残留農薬分析体制

佐藤顧問 写真5 青島市のマンション群

写真:青島市のマンション群

 

中国の検査機構は、2016年2月の「ジェトロセンサー」によれば、2014年には中国全土で28,340の組織があり、検査機構への就業者数は約37万人としている。内訳は、中央政府関連組織は14,509、集団組織1548、民営組織8952、外資系組織143、その他は3,188組織との事で、過半数が『国営企業』である。

その業務収入は1,631億元(1元=16円とすると、約2兆2千億円)になり、まだまだ増え続ける傾向にあるようだ。また、インターネットでの検索によると、2016年には中国全土で33,235組織があり、約100万人がこの組織に就業している。業務収入は約2,060億元(約3兆3千億円)である。

この業種の性格から、山東省や広東省等の経済発展地域に偏在していて、営業収益の36%がこの地域であげられている。華東地域に29%が存在している反面、東北地域では10%程度の組織しか存在せず、その営業収益も全体の5%程度にしかならないとの事である。

検査組織の内15年以内に設立された組織数は約2万であり、7千組織は5年以内に設立されたものである。職員が300人以上いる組織はわずか0.5%程度であり、96%の組織が100人以下である。

食品等の品質向上や安全意識の高まりなどで検査組織の社会的必要性は高まっているが、検査技術は、外資系組織と一部の国有企業を除いて、国際水準には届いておらず、ニーズに答えきれていないのが実情のようである。

中国政府は2020年頃までに国営の検査組織を改編・統合して、国有企業から切り離し、行政とサービスを分離し、企業をブランド化したい意向である。この事により技術力を高め、サービスレベルを向上させる方針であるが、政府系検査組織では危機意識が低く、政府系から外れることへの不安や、検査組織に対する法整備の立ち遅れなどの課題がある。また、政府系組織が独占している「強制的検査業務」を外資系組織にも開放することによって、外資系組織が保有している技術を吸収して、国際的な対応を可能にしたい意向を持っているようである。

 

終わりに

2017年10月に中国では5年毎に開催される「全国人民代表会議」が開催され、習近平総書記は新たに『創新』を歌い上げ、中国を「先進国を追う立場」から「世界の先頭に立つ国」に押し上げることを宣言した。近年の中国の発展振りは目覚ましいものであり、技術革新も急激に進んでいる。今や世界第2位の経済大国であり、14億とも15億ともいわれている人口を抱えた巨大な国家に名実ともに浮上しつつある。人々の日常生活でも、どこにいてもスマホでタクシーを呼び寄せられたり、商店での支払いにキャッシュレス化が導入されたりと、人々は新しい技術の導入に非常に積極的であり、貪欲でさえある。

食品安全施策についても、その対象が輸出用食品から国内消費用食品へと転換しつつある。そして、米国のレスターブラウンの論文で予告された通り、世界中の食料が14億人の「豊かな食生活」の為に集められつつある。中国の人たちが「マグロ」や「サンマ」のおいしさに目覚めたことにより、価格が高騰し日本の我々の口に入りにくくなったように、既にその影響が我々にも及びつつある。

食料の「自給」には遠く及ばない我々日本にとって「食料問題」は避けて通れない重要課題であり、敢えて極論を言えば、「世界は『核の傘』による支配から『食料の傘』による支配にと移って行く」とさえ言えそうな気がするが、いかがであろうか?

 

講座①「輸入食品の安全性」こちら

講座②「食品安全に対する動向」こちら

 

参考資料

  • 厚生労働省医薬品食品局食品安全部 輸入食品監視統計
  • 石川武彦 「中国食品安全法規の新局面」立法と調査 2010.3 No302
  • 加藤康二 「検査認証:国有機構改革と外資への市場開放」ジェトロセンサー 2016.2
  • 「中国 改正食品安全法」日本貿易振興機構北京事務所農林水産・食品課 2015.9

 

(執筆:アジア食品安全研究センター 顧問 佐藤元昭)

 

 

2017.10.30 更新