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カビ相談センター高鳥浩介先生の「食品とカビ雑学」講座④『カビの発育』

新連載を開始します!

NPO法人カビ相談センターの高鳥浩介先生に「食品とカビ雑学」についてご寄稿頂きました。

 

第4回目は「カビの発育」です。

●カビの発育条件
カビの発育に関与する因子として栄養、水分、温度、酸素、pHなどがあげられます。ここでは、食品を例にとり、これら諸因子のカビの生育に及ぼす影響についてふれたいと思います。

 

(1) 栄養源

カビは有機物を栄養源にして発育する従属栄養型の生物で、餅や菓子類などに生えやすいように、澱粉、糖分、セルロ-スに富んだ物質を特に好みます。食品以外にも木材、畳、壁、布、皮革などにも生えます。菌種によっては、手垢やホコリなどを栄養源にして発育することができます。特に、食品はその成分中に様々な物質を含み、それが微生物にとって栄養源になります。

しかし、食品に水分を添加し、発育に適した温度条件にしたのち、カビ胞子を接種してもカビが全く発育しないものも存在します。ニンニク、炒りコーヒー豆、シナモン、香辛料の一部でそのような結果が得られています。それらの成分中には強い抗カビ作用を示す物質が含まれることが明らかにされていますが、このような食品は食品全体からみればごく一部に過ぎません。

他方、カビの発育を抑制する目的で、食品中には各種保存料をはじめ、食塩、砂糖、アルコール、有機酸などが添加されています。しかし、消費者の嗜好の変化、自然食志向、成人病予防などの理由で、低い塩分・糖分の食品の増加し、保存量などの使用も忌避される傾向にあり、カビの制御はむしろ難しくなってきているのが現状といえます。

 

(2)温度
カビの発育に適した温度は、菌種によって温度域は異なりますが、一般に、20~30 ℃で、それ以上あるいはそれ以下の温度での発育速度は急激に遅くなります。特に私たち人間が快適に感ずる25~29゚Cという温度は、カビの発育にも最適な温度です。

 

培養条件

図1 温度差によるアオカビPenicilliumの発育(1週間培養集落)

 図1はアオカビPenicilliumの25、28,35℃の1週間培養後の集落です。この写真をみる限り25℃が発育よく29℃では次第と小さくなり、35℃では発育していません。また、食品から高頻度に検出されるカビのうち、CladosporiumMucorPhomaRhizopusThamnidium、などは低温(4-10℃)環境で発育可能であることが明らかにされており、これらは実際に冷蔵食肉などでの発生例も報告されています。

低温下での流通・保管は一部のカビの食品における発育を阻止し、多くのカビの発生を遅らせる効果がありますが、低温条件のみですべてのカビを制御することは困難です。

 

(3)水分
食品に含まれる水分のうち、微生物が利用可能な水分含有量は水分活性という言葉で表現されています。食品中に水が含まれていても、その水の全てを微生物が利用できるとは限りません。

微生物は、いわゆる自由水だけを利用できます。この自由水の量を示す水分活性値は、その食品が水分を吸収も放出もしない時の周囲の空気の相対湿度を100で割った値で表されます。微生物の発育可能な水分活性値を示しました(表1)。

カビは比較的乾燥した環境でも発育することができます。多くの細菌が水分活性0.90(相対湿度90%)以上の湿った環境でなければ発育できないことに比べ、普通のカビは0.80(相対湿度80%)以上、好乾菌と呼ばれる一部のやや乾燥した環境を好むカビは0.65(相対湿度65%)以上と低い水分活性でも発育することができます。

やや乾燥した食品などでカビが優勢となるのはこうした理由によります。

 

(4)酸素
カビは酸素が無いと発育できません。この性格を利用した脱酸素剤、ガス置換法や真空包装が効果的なカビ汚染防止法として活用されています。

しかし、包材のピンホールや溶封不良、商品流通が長期に及んだことによる事故が多く発生していることから、酸素透過性を考慮した適正な包材の使用と食品を製造するときの厳重な工程管理が要求されます。

 

(5)pH
カビや酵母の代謝活性は周囲のpH環境により直接影響されます。カビの生育可能なpH域は一般にpH3.0から9.0の範囲です。

PH調整

図2 pHによるアオカビPenicilliumの発育

 

図2にアオカビPenicilliumの各pHでの発育比較していますがいずれでも同程度に発育しています。一般には大部分のカビの発育に適したpHは4~6の範囲です。

しかし、発育可能な範囲は菌種によって異なり、周囲の水分活性や温度によっても影響されます。また、カビの中にはpH3程度の低い条件でも旺盛な生育を示すMoniliellaなどの好酸菌があり、ソース、マヨネーズ、食酢などの変質の原因となっています。

カビと食品との関係を食品の側からみた場合、水分活性が0.7以上(高い水分活性では細菌が優勢)、pH 3.0から9.0の範囲、35 ℃以下(冷凍を除く)、好気的に包装された食品がカビによる危害を受ける危険性の大きな食品といえます。

したがって、こうした食品の流通時におけるカビ発生を防ぐには、前記のカビの特性を考慮したうえで、いずれかをカビの発育できない条件に設定する必要があります。

 

表1  微生物の発育可能な最低水分活性値

水分活性

 

食品とカビ雑学講座① 「カビって何だろう?」はこちら

食品とカビ雑学講座② 「カビの俗名」はこちら

食品とカビ雑学講座③ 「カビの発育と形態」はこちら

 

<執筆者>

高鳥 浩介(たかとり こうすけ)
NPO法人カビ相談センター 理事長

(ホームページ:http://www.kabisoudan.com/

 

略歴
昭和47年 東京農工大学大学院獣医学専攻修了
平成14年 国立医薬品食品衛生研究所  衛生微生物部長
平成19年 東京農業大学 農学部 客員教授
平成19年 帯広畜産大学地域共同研究センター 産学官連携教授
平成19年 日本獣医生命科学大学 獣医学部 客員教授
東京大学 農学生命科学研究科  非常勤講師
平成20年 NPO法人カビ相談センター 理事長

審議会・委員会
食品安全委員会 委員(自然毒・カビ毒専門調査会 副座長)
日米有毒微生物専門部会(UJNR)
(独)国際協力機構 大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト
東京都産業技術研究センター エンジニアリングテクノロジー

著書
「カビのはなし」朝倉書店 2013年
「目で見る真菌と真菌症」医薬ジャーナル 2014年
「食品・環境の衛生検査」朝倉書店 2014年
「カビ苦情・被害管理マニュアル」NPO法人カビ相談センター1~4巻 2015年

 

2018.07.04 更新